「ほら、また手が止まってる。ちゃんと集中して」
お母さんの声が、静かな部屋に響きました。小学3年生のソラちゃんは楽譜を見たまま、小さくため息をついて下を向いてしまいます。
来月は発表会。好きな曲を弾けることになって、練習を始めてもう2週間です。毎日1時間、ちゃんとピアノの前に座っています。それなのに、同じところで何度もつっかえます。時間が長くなるほど手は止まりがちになり、ミスも増えていきました。
「私、ピアノ向いてないのかな」
ソラちゃんがそう言い出したので、お母さんも困ってしまいました。こんなに頑張っているのに、どう声をかければいいのか分かりません。次のレッスンの日、お母さんは先生に相談してみました。
先生は少し笑って、こう言いました。
「ソラちゃんの集中が切れるのは、やる気や才能の問題じゃないですよ。脳は体重の2%くらいしかないのに、体全体のエネルギーの2割ほどを使っています。だから、なるべく省エネで動くようにできているんです。同じことをだらだら続けていると、脳が疲れてしまって、働きが落ちてきます」
つまり、長く座れば集中できるわけではない、ということです。先生は、練習のやり方を変えてみることを勧めてくれました。
ソラちゃんが試した4つのこと
- 一か所だけをよく見る
最初は欲張りません。「今日は最初の2小節の強弱だけ」というように、見るところを一つに絞ります。楽譜でも、先生のお手本でも、自分の音でも構いません。 - 楽譜から目を離して弾く
メロディを頭の中で思い浮かべながら、ゆっくり弾きます。見ないで弾くと、指が覚えているところと覚えていないところがはっきりします。 - 曲全体を聴く
部分が弾けるようになったら、細かいことは気にせず、曲の流れや部屋に響く音を聴きます。「ここを小さく弾いたらどうなるかな」と、いろいろ試して遊んでみます。 - 思いきって離れる
行き詰まったら、ピアノから離れます。散歩をしたり、お風呂に入ったりして、ぼんやり過ごします。休んでいる間にも、脳は覚えたことを整理しているそうです。
そして1回の練習は、15分くらいで区切りました。
変わったこと
練習時間は前より短くなりました。それでも、曲の仕上がりは前より早くなりました。
ある夕方、散歩から帰ってきたソラちゃんが、急に「あ、あそこの弾き方わかった!」と言ってピアノへ走っていきました。歩いている間に、指の動かし方が頭の中でつながったのかもしれません。
発表会の日、ソラちゃんは笑顔でステージに上がりました。ホールに響く自分の音を聴きながら、最後まで気持ちよく弾ききりました。客席のお母さんは、途中から涙をぬぐっていました。
ご家庭でも
お子さんの練習が続かないとき、時間を増やす前に、短く区切って、途中で休む練習を試してみてください。集中力は、生まれつきの性格だけで決まるものではありません。やり方を変えると、ぐんと伸びる子はたくさんいます。
練習のことで気になることがあれば、レッスンのときにいつでもご相談ください。
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